「似たような何か」で匂いを表現する
「匂い」をどのように表現すべきか。
ここ部分に困っている書き手も多いのではないでしょうか。
色の描写であればすでにさまざまな表現が存在しているため、それを用いれば良いのです。
しかし「匂い」となると、色ほど繊細な変化に対応した表現はありません。
そう考えれば、「匂い」は描写のなかでも難易度が高い部類に入るでしょう。
今回は、その「匂い」を表現するためのテクニックをご紹介します。
結論からいいましょう。
匂いは、似たような何かを使って表現すれば良いのです。
抱きよせた彼女から、バニラの匂いがした。
香料としても有名な「バニラ」を使うことで、読み手はかんたんにその匂いをイメージすることができます。
似たような何かを借りて表現する方法は、幅広く応用できます。
ローズやジャスミンといった植物の匂い、レモンやストロベリーといった果物の匂い、防虫剤や除草剤といった薬品の匂いなど……
普段の生活のなかで一般的に実感できるであろう芳香であれば、このテクニックはとても有効に使うことができるでしょう。
ただし、これらは匂いに対応できる「似たような何か」があるからこそ成立します。
例文では、彼女からちょうどバニラの匂いがしたからこそ、その様子を描くことができましたが、現実の世界においては「形容しがたい匂い」もたくさん存在しますね。
「形容しがたい匂い」は、直接的に表現してしまうとかえって純度が下がってしまうのです。
この場合、もっとあいまいに表現する必要があります。
次のように書いてみるのも、ひとつの手です。
抱きよせた彼女から、バニラのような匂いがした。
バニラ”のような”匂いとすることで、表現のダイレクトさが緩和されました。
「のような」を使えば、関連性のない意外なものからでも借用することができます。
たとえば、「抱きよせた彼女から、”スイッチを切ったばかりの石油ストーブ” のような匂いがした」と表現しても、成立してしまうのです。
あいまいな表現であるからこそ、応用可能な幅がより広がるというわけです。
執筆において、「のような」といった表現はあまり好まれません。
しかしこの場合は意図したものであり、必要があってあいまいに表現したため「禁じ手を使った」というほどの罪はないと考えます。
もちろん、書き手個人の判断にもよりますが、匂いの表現においては「のような」を使うのもひとつの有効な手ではないでしょうか。
ぜひ、描写表現の参考にしてください。
■ 参考
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