「人間関係」から人間を描く
「出来事に対するリアクション」を重ねることで登場人物の人格が規定されるとご紹介しました。
今回は、登場人物の人格を規定する「出来事」について、具体的に考えていきましょう。
思いつきやすい例は、登場人物に課せられる障害です。
与えられた特殊なシチュエーションと、それに対するリアクションによって、登場人物の人物像を固めることができます。
「明日、巨大な隕石が降ってくるようだ」
「気がつくと、どこかに閉じ込められていた」
「事故によって、大切な人が亡くなってしまった」
問題を解決するためにポジティブに取り組むか、あるいはネガティブなままやり過ごすのか。
たったこれだけの違いでも、描き方は変わってきますね。
しかし、特殊な状況から期待できるリアクションは非常に限られています。
端的にいえば、シチュエーションに対するリアクションでは、具体的な人物像を描くことができないのです。
上記の例でいえば、「狼狽する」「怯える」「落ち込む」など、似たり寄ったりなものになるのが関の山でしょう。
書き手が重視すべき「出来事」は、もっと身近なところにあります。
それは「人間関係」です。
他者との関係性は、もっとも人格があらわになる要因のひとつです。
「主人公」と「主人公以外の登場人物」が関わり合うことで、そこに「人間らしさ」が浮かび上がってくるのです
これは、人間そのものを描くことに直接つながります。
■ 人間を描くこと
とくにわかりやすいのは、対話です。
会話文をもって、主人公とその友人を対話させてみましょう。
例
友人 :「その時計、いつ買ったの?」
主人公:「つい最近だよ。安モンだけど気に入ってるんだ」
友人 :「たしかに安そうだね」
買ったばかりの時計を「安そう」と言われた主人公は、どのように思うでしょうか。
友人とそれほど親しくないのであれば、傷ついたり、苛立ったりするかもしれません。
キツめの冗談をいえるような間柄であれば、笑いで終わる場面でしょう。
前提によってその関係性は変わるものの、重要なのは次に書かれる文章です。
他者と関わったときに主人公がどうリアクションするかによって、その人物像が明らかになっていくのです。
もちろん、これは主人公に限ったことではありません。
「主人公以外の登場人物」についても、主人公の反応によって「嫌なヤツ」か「おもしろいヤツ」で分かれるでしょう。
したがって書き手は、他者を描き、主人公と対話させるだけで、お互いの人物像を描くことができるのです。
「出来事に対するリアクション」は、思っていたよりも広い意味をもっています。
とくに小説には、「人間関係を生々しく描くことができる」という特徴があります。
書き手として、これを活用しないわけにはいきませんね。
人間を描くときは、突飛な出来事を重ねることに注力するのではなく、身近な関係からアプローチしてみましょう。
■ 参考
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