「書かない内容」が物語を支える
物語を構築する際、書き手は「書く内容」と「書かない内容」を取捨選択しながら執筆しますね。
執筆ですから、「書く内容」に重きをおくのは当然です。
しかし、だからといって「書かない内容」を軽んじるべきではありません。
ここで油断していると、思わぬ事態を招いてしまいます。
たとえば、次のような状況です。
例として挙げた2つの文を、同じ作品に混在させてしまうことがあるのです。
例
● 向かいの家に越してきた男女は、人の良さそうな老夫婦だった。
● 向かいの家に住むカップルは、毎晩のように友人らを招いて騒ぎ立てている。
向かいの家に住む男女が「老夫婦」と「男女」でちぐはぐになっています。
最初に「老夫婦」の様子として書いたのであれば、それを徹底しなければなりません。
それにもかかわらず「カップル」と書いてしまうと、作品のなかで整合性がとれなくなるのは当然ですね。
引っ越して住人が入れ替わった可能性もありますが、その様子が描かれていなければ “書き手のミス”でしかないのです。
2つの文を並べながら考えると、「そんな単純なミスはありえない」「自分に限ってそれはない」などと感じるでしょう。
残念ながら、このような”うっかりミス”は決して珍しくないのです。
というのも、執筆するときは大小さまざまな要素を複合的に扱うことになります。
描写をするときなど、「小さな要素」として書き加えた内容を書き手が忘れてしまうと、例のような状況になるのです。
とくにこれは、物語に直接関わらないところで起こりがちです。
主要な内容は「書く内容」として書き手に自覚があるため、そうそう矛盾は起きません。
物語との関係が薄い設定や、なんの気なしに書き加えた小さな要素であれば、「書かない内容」が水面下に沈み、書き手自身も忘れやすくなります。
具体的には、向かいの家に住む男女が「人の良さそうな老夫婦」であれば、主人公が普段から騒がしい夜を過ごすことはありません。
構造上、その両方が作品内に並立することはないはずですね。
つまり、本来は「書かない内容」として扱うべき内容であるのに、物語との関連性が薄いためにこれを失念し、別の内容に書き重ねてしまうのです。
執筆途中、「その場の思いつき」で要素を加えるのは悪いことではありません。
ただし、一度でも要素を加えたのであれば、水面下で継続させる必要があります。
それ以降の展開や描写にはまったく登場しないとしても、「書かない内容」として物語に浸透させなければなりません。
物語の世界を支えるのは、「書く内容」ではなく、「書かない内容」です。
「書く内容」にばかり気をとられていると、例にあったようなちぐはぐな物語になってしまいます。
書き手は「書かない内容」にも目を向けながら、その設定を重視して、物語を形成していきましょう。
■ 参考
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