「会話をしている空間」を描く
会話するとき、無意識のうちに身振り手振りを加えることがあります。
あるいは、目線の先を変えてみたり、顔を傾けてみたりなど、なにかしらの動きがあるのです。
これがまったくないとしたら、かえって不自然ではないでしょうか。
たとえば、私たちは『ペッパーくん』のようなロボットと会話ができます。
生身の人間とのやりとりとは感覚的に大きく異なるものの、どこかに愛嬌を感じます。
だからこそ、スムーズに会話が成立したときは嬉しい気持ちになりますね。
しかし『Siri』や『Googleアシスタント』の音声に対して、そのような感情は芽生えるでしょうか。
淡々としている様子や的外れな回答に笑うことはあっても、親近感は沸きづらいはずです。
理由はさまざまですが、そこに動きがないことが大きな要因として考えられます。
私たちがやりとりする会話の内容に着目すると、そのほとんどは単なる情報交換でしかありません。
そこに「人間が話すときの動き」が加わることで、リアルな会話らしくなるのです。
人間のリアリティとは、細かな仕草からもたらされることが圧倒的に多いです。
物語として会話の様子を書くにあたって、これを無視するわけにはいきません。
小説において会話文を書くということは、会話をしているその空間を描くということなのです。
例を挙げるのはなかなか難しいですが、たとえば次の文章を読んでみましょう。
A. 彼女は言った。
「もう、どうでもいいよ」
B. 彼女は目を伏せ、髪を触りながら言った。
「もう、どうでもいいよ」
人工知能とやりとりするようなAの文に対して、Bの文では人間味が感じられます。
もちろん、Aの文のようにシンプルに書く場合も珍しくはありませんが、それは書き手が意図したものでしょう。
いずれにしても、たったこれだけの違いで、描く場面から受ける印象はまったく変わるのです。
このことを書き手は覚えておくべきです。
会話文を書くときは、その空間に目を向けてみましょう。
今その人が何をしていて、何を思っているか。
これを適切なタイミングで、適切な表現で伝えると、作品のリアリティは増します。
物語の都合に合わせた情報を書き込むのではなく、人間の様子をしっかり捉えながら会話の場面を描いていきましょう。
■ 参考
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません