臨場感を出すための描写
描写において、目に見えるものすべてを描こうとするのは、ナンセンスです。
もちろん多くの小説には「情景」が描かれていて、そうした描写が必須であることに疑いはありません。
しかし、視覚でとらえられる情報を伝えたいのであれば、写真や映画のほうが適切じゃありませんか。
「リアル」を説明しようとする文章は、そのほとんどが野暮ったいだけです。
小説においては、雰囲気を描くことのほうが大事です。
なぜなら、この「雰囲気」こそが、小説に臨場感をもたらしてくれるのですから。
「雰囲気を描く」となると難しい印象をもつかもしれませんね。
ポイントは、印象的な要因を抽出することです。
たとえば、「レストランの様子」を描写するとしましょう。
外観、エントランス、内装、イス、テーブル、メニュー、ウェイター、他の客、料理……
ありのままのモノを書き連ねるのでは、ページ数がいくらあっても足りませんね。
さらにいえば、これらを列挙したところで読み手に「レストランの雰囲気」を伝えることは難しいでしょう。
であれば、象徴的なものを選んで抽出するほうが、よほど効果的です。
「擦り減ったカーペット」「べた付くテーブル」「折り目のついたメニュー」のように言葉を選べば、読み手は「古びたレストラン」がイメージできますね。
こうするだけで場の雰囲気は伝わり、臨場感を出せるのです。
また、これは心情描写についても応用できます。
「うれしく思った」「ムカついた」「悲しくなった」「楽しかった」のように、ストレートに表現したとしましょう。
こうすれば書いてある内容は直接的に伝わりますが、読み手が登場人物の心理状態に共感できるかといえば疑問です。
「学内トップの顔面偏差値をもつ彼から告白された」「友人から30万円騙し取られた」「父親が援助交際に加担していた」「時が過ぎるのを忘れるほどに大声ではしゃいだ」
など、特定の感情にいたるまでには変化をもたらした要因があるはずです。
それを抽出して、言葉を選びながらプロセスを構築する。
心理描写においては、このように外堀を埋めることで説得力が増すでしょう。
これもまた、臨場感につながりますね。
表面をなぞるだけの書き方では、素人とさほど大差ないのが現実です。
目に見えるものだけでなく、「雰囲気」をつかみ取って表現できる書き手になりましょう。
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