会話文を使って情報提供する

 

小説では、読み手に知ってもらいたい情報をいたるところに盛り込まなければなりません。

そうした役割を担うのは説明文や描写文といった、いわゆる「地の文」ですね。

地の文に「読み手の理解してもらう」という目的があるため、書き手がここで情報提供するのは当然のことです。

 

しかし今回は、地の文ではなく、会話文で情報を提供しようというのが大きなテーマです。

ここでは、「説明的会話文」とでも呼びましょうか。

例を見てみましょう。

 

 

例文

僕は鬱屈としたまま出社した。

タイムカードを押して間もなく、総務の高橋さんに声をかけられた。

佐藤くん、何かあったの? そんなに怖い顔して」

 

この場合、「佐藤」という名前がまだ出てきていないことを前提としています。

例文のように、誰かに呼ばせることで「一人称の名前=佐藤」を読み手に認識させたというわけですね。

 

会話の内容に必要な情報を盛り込み、暗に説明する。

そうすることで、あえて「僕の名前は佐藤だ」というような便宜的な文章を書かなくて済むのです。

これが、説明的会話文の効能です。

 

説明的会話文を使いこなせるようになると、書き手はとても楽になります。

読み手に理解させるべきことを登場人物がそれとなく説明してくれるのですから、地の文で頭を悩ませる必要はなく、物語を組み立てやすくなるのです。

 

ただし、やりすぎには注意してください。

 

 

例文

僕は出社すると、総務の高橋さんに声をかけられた。

「佐藤くん、何かあったの? 出社直後のタイムカードを押した瞬間からそんなに鬱屈とした表情をして。もしかして彼女にフられたとか? あっ、そういえば今お付き合いしてる彼女はいないんだったね。通勤に2時間もかかるから疲れちゃった? いずれにしても、その様子だと午後までもたないわよ

 

地の文で説明するはずの「鬱屈とした」気持ちを、高橋さんは主人公の表情から読み取ったようです。

朝一番の会話に、この単語をもってくるのは不自然ですね。

また、「彼女はいない」ことや「通勤に2時間もかかる」ことなど、登場人物の情報を一挙に詰め込みすぎている印象を受けます。

(総務の高橋さんが「おしゃべりなおばちゃん」である設定も使えなくはないのですが……)

 

このように、「説明的会話文」に頼りすぎると読み手に違和感を覚えさせてしまうのです。

小説における会話文は、ただでさえ日常の話し言葉と性質が異なります。

上記の例文は、それに追い討ちを欠かけるような書き方になっていますね。

会話でのこうした情報は、前後の関係や全体のバランスをみながら提供すべきなのです。

 

説明的会話文は、執筆のテクニックとしては手垢にまみれたものです。

しかし、これが小説に欠かせないものであることは確かです。

情報を詰め込みすぎないよう注意しながら、効果的に使いましょう。

 

創作

Posted by 赤鬼