「死」にかかわる表現は意図的にぼかす
書き手は、伝えるべき内容を正確な言葉に変換しようとします。
あいまいな表現を使ってしまうと、読み手に文意が伝わらず、誤解を生じさせる可能性があるからです。
正しい言葉に変換しようとする試みはとても重要で、執筆の基礎ともいえる姿勢ですね。
ただし、直接的な表現が適切であるとは限りません。
時には、表現をぼかすことも必要なのです。
あの駅で、飛び込み自殺があった。
意味はわかりやすく伝わるものの、あまりにもデリカシーのない文章です。
事実としてこのような出来事があったとしても、この文から受ける印象はネガティブそのもので、気分の良いものではありません。
ネガティブな印象を隠すため、世間ではこのように伝えています。
あの駅で、人身事故があった。
出来事としての違いはなく、その内容も変わらないものの、直接的な表現がはばかれる言葉は多々あります。
そのひとつが、例に挙げた「死」にかかわる言葉です。
「死」にかかわる言葉は、忌み言葉として避けられる傾向にあります。
これを扱う場合、書き手は、マイナスイメージを与えないように言葉をコーティングしなければならないのです。
単純なわかりやすさのみに着目すれば、「飛び込み+自殺」のほうが様相が伝わるのは明白です。
しかしそこにある直接的な生々しさは、人を不快にさせます。
そのため「人身事故」とコーティングしたほうが、文章は読みやすくなるのです。
この書き方は、わかりやすい文章を書くためのセオリーに反しています。
なぜなら、あいまいな言葉を使い、受け取る側の解釈にゆだね、推して知ることを期待しながら書くからです。
ある意味では、「隠語」や「暗黙の了解」に近い形をとることになりますね。
発信する側としては、十分な理解を促すように巧く表現する必要があります。
参考になるのは、ニュース言葉です。
「重症」と「重体」や、「わいせつな行為」と「みだらな行為」など、言葉の意味する内容がそれぞれに定義づけられています。
興味がある書き手は、報道関係の文言に注目し、その意味を調べてみましょう。
わかりやすい言葉を使うことは大切ですが、そこに固執する必要はありません。
読み手のことを考えたり、内容として扱う対象をリスペクトするほうが、よっぽど重要です。
遠まわしでありながらも、その意味がしっかり伝わるように配慮した表現を使いましょう。
■ 参考
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