一人称小説の「罠」に注意する
「内面の描写」は、小説の醍醐味そのものといっても過言ではありません。
読み手は、主人公の心情に自分を重ねたり、新たな価値観を得たりと、物語に魅力を与えるための要素でもあります。
人間の心理を深くまで掘り下げて、それを文章で表現するのですから、作家の感性を存分に発揮できる機会です。
書き手としては、大きな快感を得られる作業ですね。
しかしながら、これは「書き手に仕向けられた罠」でもあります。
ありがちなものとして、2つの罠が挙げられます。
1. ふと目が覚め、時刻を確認するとまだ夜中 ⇒ きっかけ
(罠 ①)
2. それとなく昨日のことを思い出した ⇒ 考え事をはじめる
(罠 ②)
3. 僕を理解してくれる人は誰もいない…… ⇒ 「心の声」の発生
2つの罠に共通しているのは、小説が「つまらない一人芝居」になりがちだということ。
かんたんに解説しましょう。
1つ目の罠は、①と②の間にあります。
「ふと」や「ふいに」など、何かしらのきっかけを作ったあと、主人公はさまざまなことを考えはじめます。
この①と②のプロセスが唐突すぎて、流れとしては不自然に感じてしまうことが多いのです。
「一人称小説」である以上、成立しないことはないのですが、書き手がそれに甘えてはいけません。
自然な流れにもっていくような工夫が必要です。
続いて、2つ目の罠です。
これは、②と③の間というよりも、③の前にあるといったほうが正しいでしょう。
主人公が考え事をはじめるのは良いとしても、それを奥深くまで掘り下げるにつれて、余分な「心の声」が入り込みがちです。
快感を得るため、書き手がここにのめり込むと、「つまらない一人芝居」をよりいっそう助長させてしまいます。
上手に表現するための工夫がなければ、読み手は興ざめするでしょう。
こうした「つまらない一人芝居」への対策は意外にシンプルです。
主人公を孤独にしなければいいのです。
外出させたり、誰かと会話させたりと、積極的に行動させること。
新たな要素を主人公に与えることで、感性を刺激するように誘導します。
すると、物語の流れや心の声に説得力が増します。
これが「つまらない一人芝居」にならないためのポイントです。
当然ながら構成にも関わる作業であるため、全体のバランスを見ることは必須ですね。
むやみに書きなぐるのはやめにして、緻密かつスマートに計算しながら執筆しましょう。
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