会話文の揺らぎが「人格」を反映する
必要な情報を過不足なく伝えることだけが、会話文ではありません。
実際の会話には「揺らぎ」があり、書き手はこの不安定な状態を再現することも考えるべきです。
会話文から感じとれる揺らぎは、「登場人物の口調」を表現することにもつながります。
たとえば、次のような「言い方」で見比べてみましょう。
例
● 「グチグチ考えちゃうタイプなんですよ。人に嫌われるんじゃないかってね」
● 「つい、グチグチ考えてしまうタイプなんです。人に嫌われるのが怖くて……」
● 「こう見えて、グチグチ考えちゃうタイプでね。人に嫌われると面倒だからね」
同じような内容の会話文であっても、それぞれの印象は異なりますね。
このように、会話文の書き方は「登場人物の人格」を反映しているといえます。
具体的には、「どんなことを言うか」や「どんなふうに言うか」などで、その人の「心理」や「性格」の断片が表面化するのです。
先の例をもって、かんたんに分析してみましょう。
例
● 「グチグチ考えちゃうタイプなんですよ。人に嫌われるんじゃないかってね」
→ 達観している、冷静に自己分析している、ちょっとキザっぽい
● 「つい、グチグチ考えてしまうタイプなんです。人に嫌われるのが怖くて……」
→ 深刻に悩んでいる、自己嫌悪感がある、不安を感じている
● 「こう見えて、グチグチ考えちゃうタイプでね。人に嫌われると面倒だからね」
→ 自己評価やプライドが高い、自分の領域を守りがち
正確なプロファイリングができているかは別として……
会話文が「人格を感じとれる要素」として機能していることは、おわかりいただけたはずです。
もちろん、会話文の文言だけで人格を断定することはできません。
本来、場面や展開、描写など、「地の文」をもって徐々に規定されていくものです。
表情や声色、身体の動きも同様に、会話文だけでは不足している情報も「地の文」で補完することになりますね。
ただし、会話文ほど「人格」がわかりやすく表面化するタイミングはないといって良いでしょう。
物語の流れのなかで、登場人物がどのようなことを言うか。
限られた状況や境遇において、どのように言うか。
そこに描かれる内容は、その人の発言であるからこそ、その人らしいものであるべきです。
書き手が会話文を描くときは、このことを見据えておくべきです。
登場人物の人格に基づいて、人物像とセリフとのマッチングが崩れないようにしなければならないのです。
盛り込んだ「揺らぎ」とのバランスをとりながら、リアルな会話文を描いていきましょう。
■ 参考
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