推量には「根拠」を明示する
一人称小説では、主人公の知らないことは書けません。
執筆において直面する問題の多くは、他人の内面の描写でしょう。
主人公はこれを断定することはできないため、登場人物の気持ちを描くときには注意が必要です。
たとえば、「失恋した女の子を目の当たりにする場面」があったとします。
主人公はその女の子ではないため、本当の気持ちを理解することはできず、ましてや断定することなどはもってのほかです。
しかし物語を進めるにあたって、これを無視できない状況が多々あります。
登場人物の心情を察した上でその様子を描写しなければ、読み手に伝わらないのです。
書き手は、主人公が女の子の気持ち代弁するために、このような文末を使って伝えようとするはずです。
「~のようだ」「~らしい」「~みたいだ」といった、いわゆる推量表現を使います。
ほかにも、「落ち込んでいるように見えた」としてもいいですね。
間接的にでも、彼女の気持ちを読み手に伝えることができます。
ただし、悪くはない書き方ではありますが、説得力があるかといわれれば疑問が残ります。
彼女の胸中は復讐にもえているかもしれませんし、落ち込んだフリをして次のことを考えているのかもしれません。
この書き方だけで読み手に納得してもらうには、不十分だといえるでしょう。
重要なのは、根拠を明示することです。
文末は変わっていませんが、彼女の詳しい様子が新たに描写されました。
ただ推量表現を使うのでは説得力がないだけでなく、つまらない文章になってしまいます。
根拠を明示すること、つまり主人公がなぜそのように思ったのかを描写することで、この問題は解消されます。
例文ではひとつの文で完結させるように書きましたが、前後の文章で補完してもかまいません。
彼女は、荒れきった部屋で膝を抱え、涙を流していた。
ひどく落ち込んでいるようだ。
このあたりは、書き手の筆致や作品にあわせて変えて良い部分です。
くりかえしになりますが、重要なのは根拠を明示することです。
主人公がなぜそう思ったのかという理由をもって、読み手の納得が得られるように書きましょう。
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