危機的な状況を描く ~ 人格×要素×環境 ~
危機的な状況を扱う物語には、欠点があります。
たとえば、登場人物に迫りくる危機として「時限爆弾が爆発する」を設定したとしましょう。
たいていの場合、結末は「なんとか無事に解除できる」か、「結局爆発してしまう」かの二択です。
つまり、危機的な状況を取り入れる場合、ほとんど結末が決まった物語を書くことになるのです。
読み手が結末をかんたんに想像できてしまうことに、抵抗を感じる書き手も多いでしょう。
しかしこの部分はさほど重要ではなく、あまり気にする必要はありません。
なぜなら、読み手も承知の上だからです。
読み手は、結末に対する期待からその世界に浸るのではありません。
スリリングな状況の描き方に引き込まれているのです。
だからこそ書き手は、「いかにして危機を設定するか」や「いかにして描いていくか」に重点をおいて考えるべきなのです。
さまざまなアプローチがあるものの、ここでは「要素×人格×環境」で考えていきましょう。
普段は「厳しい上司」として知られている40代の男性を、登場人物に設定します。
● 危機
⇒ 今にも漏れそうなほど、激しい便意を催していた
● 最悪の状況
⇒ 職場で漏らすと、たちまち笑いものになる
● タイムリミット
⇒ トイレにたどり着くまであと少しだ
この場合、以下の3つが危機的な状況を引き立てる仕組みになっています。
①要素 → 「激しい便意」
②人格 → 「厳しい上司」
③環境 → 「職場」
いくら厳格なパーソナリティをもっていても、生理現象に逆らうことはできません。
上司としての威厳を保つためにも、オフィスで糞尿を撒き散らすわけにもいきません。
すると、焦りながらトイレに急ぐ様子を描くことができます。
危機的な状況を描くとき、頭に浮かびやすいのは「要素」の部分です。
「時限爆弾」や「人質」や「病気」など、危機の要素は比較的かんたんに思いつくのです。
描くときのポイントは、危機の要素に「人格」や「環境」をうまく結びつけることです。
この結びつきが弱ければ、危機感は薄れてしまいます。
「激しい便意×2才児×自宅」
これでは大した危機にならず、スリリングに展開させることは難しくなります。
強引に結びつけようとすると、今度は納得感が薄れます。
「激しい便意×空腹に苦しむ旅人×砂漠」
アクロバティックな描き方になりすぎると、「トンデモ」「ありえない」「現実味がない」といった印象を与えることにもつながります。
書き手は、「要素×人格×環境」のバランスをとる必要があります。
「激しい便意×キャリアウーマン×満員電車」
「激しい便意×就職活動中の大学生×面接試験」
「激しい便意×男子高校生×彼女との初デート」
複合的に嚙みあわせながら作りあげることで、危機的な状況はその濃度を増していきます。
そうすると読み手は、「いかにして危機を乗りきるか」「はたまた大惨事が起きるか」を追わざるを得なくなるのです。
書き手は、読み手を満足させることを第一に考え、中身を重視しながら物語を描いていきましょう。
■ 参考
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません