「個」を立ち上げる
文章を書くにあたって、具体的な数値で示そうとする姿勢はとても重要です。
物事を数値化すれば、それは客観的なデータとして扱うことができます。
つまり、多くの人に向けてわかりやすく伝えることができるのです。
ただし、小説の執筆となると話は変わってきます。
小説における数値は、かならずしも絶対的な存在ではありません。
例をみてみましょう。
A. 300キロメートル先にある、築50年の一軒家に向かう。
B. 遠くにある、おばあちゃんの家に向かう。
Aの文では「300キロメートル先」「築50年」と、目的地を具体的な数値で表現しています。
客観的なデータとしてはわかりやすいのですが、場所を示したに過ぎません。
その一軒家が、どのような家であるかを判断することはできないのです。
Bの文を読んでみると、具体的な数値が何も示されてないことは明らかです。
しかし、向かう先がどのような家であるかは、すぐに読みとることができますね。
むしろ「おばあちゃんの家」という表現のほうが、生活ぶりや家の匂い、自分をやさしく迎えいれる様子など、実感をもってイメージすることができます。
同じ行き先を描くにしても、これほどまでに読み手への伝わり方が変わってくるのです。
どのような違いがあるのかというと、「個」を立ち上げる感覚があるかどうかです。
数値で示されるデータは、便宜をはかるかたちで変換されたものでしかありません。
ただの数値を見て何も感じないのは当然のことで、そこに「個」がなければ何も伝わらないのです。
こと小説においては、表面上のデータではなく、エピソードの中身を濃密に描く必要があります。
例にあったように、「個」を立ち上げた表現のほうが読み手には伝わるのです。
読み手が求めているのは、言葉だけで伝えることのできない何かです。
これこそが小説がもつ大義のひとつであり、書き手が意識して描くべきことでもあります。
数値で示された客観的なデータで、そこに「説得力」をもたせることはできません。
大切な何かを伝えるべく、個を立ち上げるように表現していきましょう。
■ 参考
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