「個」を立ち上げる

2019年6月3日

 

文章を書くにあたって、具体的な数値で示そうとする姿勢はとても重要です。

物事を数値化すれば、それは客観的なデータとして扱うことができます。

つまり、多くの人に向けてわかりやすく伝えることができるのです。

 

ただし、小説の執筆となると話は変わってきます。

小説における数値は、かならずしも絶対的な存在ではありません。

 

例をみてみましょう。

 

 

例文

A. 300キロメートル先にある、築50年の一軒家に向かう。

B. 遠くにある、おばあちゃんの家に向かう。

 

Aの文では「300キロメートル先」「築50年」と、目的地を具体的な数値で表現しています。

客観的なデータとしてはわかりやすいのですが、場所を示したに過ぎません。

その一軒家が、どのような家であるかを判断することはできないのです。

 

Bの文を読んでみると、具体的な数値が何も示されてないことは明らかです。

しかし、向かう先がどのような家であるかは、すぐに読みとることができますね。

むしろ「おばあちゃんの家」という表現のほうが、生活ぶりや家の匂い、自分をやさしく迎えいれる様子など、実感をもってイメージすることができます。

 

 

同じ行き先を描くにしても、これほどまでに読み手への伝わり方が変わってくるのです。

どのような違いがあるのかというと、個」を立ち上げる感覚があるかどうかです。

 

 

数値で示されるデータは、便宜をはかるかたちで変換されたものでしかありません。

ただの数値を見て何も感じないのは当然のことで、そこに「個」がなければ何も伝わらないのです。

こと小説においては、表面上のデータではなく、エピソードの中身を濃密に描く必要があります。

例にあったように、「個」を立ち上げた表現のほうが読み手には伝わるのです。

 

読み手が求めているのは、言葉だけで伝えることのできない何かです。

これこそが小説がもつ大義のひとつであり、書き手が意識して描くべきことでもあります。

数値で示された客観的なデータで、そこに「説得力」をもたせることはできません。

大切な何かを伝えるべく、個を立ち上げるように表現していきましょう。

 

 

■ 参考

創作

Posted by 赤鬼