危機的な状況を描く ~ 悲惨な事態を設定する ~
今回の内容は、前回の記事を発展させたものです。
前回は、書き手が設定するべき3つの要素をご紹介しましたね。
「危機」「最悪の結果」「タイムリミット」
これらの要素をもとに物語を構築すれば、危機的な状況を作りだすことができます。
今回考えるのは、「最悪の結果」についてです。
これをどのように設定するかによって、危機的な状況の重みが変わってきます。
例を見ていきましょう。
● 最悪の結果
⇒ あの電車に乗り遅れると、行きつけのレストランのランチタイムに間に合わない。
ランチタイムに間に合わないくらいで、危機が迫っているとはいえません。
しかも目的地は「行きつけのレストラン」ですから、日を改めればまたチャンスはあるはずです。
危機的な状況を描くときのポイントは、「悲惨な事態」を扱うことです。
「最悪の結果」が、最悪であればあるほど、危機の重みは増していきます。
つまり、誰が見ても、どう考えても、悲惨な事態になることを結果として扱えば、それだけで読み手を引きこむことができるのです。
● 最悪の結果
⇒ あの電車に乗り遅れると、センター試験に間に合わない。
年に一度しかないセンター試験に間に合わないとなると、事態は重くなります。
同じ「電車に乗り遅れる」という危機でも、雲泥の差があります。
次は、少し角度を変えてみましょう。
悲惨な事態を描くにあたって扱いがちなのは、「死」です。
実のところ、物語で扱う「死」には少しクセがあります。
● 危機
⇒ 3才の子どもが人質に捕られた
● 最悪の状況
⇒ 身代金を払わなければ、命の保証はないとのこと
● タイムリミット
⇒ 犯人は、明後日の午後3時までに支払うよう要求してきた
この危機的な状況は、誰が見ても、どう考えても悲惨な事態です。
しかし、手垢のつきすぎた設定であり、あまりにも現実味がありません。
物語における大きな要素にはなりえるかもしれませんが、主軸としておくには相当の工夫やアイディアが必要です。
つまり、悲惨な事態とはいえ、身につまされるような状況でなければ読み手を引きこむことはできないのです。
もう少し、実感を伴う危機を設定してみましょう。
● 危機
⇒ 真夏の昼間、3才くらいの子どもがひとりで車のなかにいる
● 最悪の状況
⇒ 熱中症になってしまうと、命が危ない
● タイムリミット
⇒ 呼びかけに対する反応が鈍いため、一刻も早く救出しなければならない
こちらのほうが情景が浮かびやすく、より危機感を煽られる設定ですね。
実際に起こるとしたら誘拐事件のほうが重大であることは明らかですが、物語として扱うとなると必ずしもそうとは限らないのです。
書き手は、読み手が感情移入できる悲惨な事態を設定する必要があります。
悲惨な事態の度合いが大きいからといって、読み手に与えるスリルが比例するわけではありません。
物語で扱う危機が読み手の目にどう映るかを意識しながら、バランスをとっていきましょう。
■ 参考
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