物語が進むほど「登場人物の人格」は規定される
今回は、「登場人物の人格」について考えます。
登場人物の人格は、書く前に設定しただけでは描くことができません。
前提として覚えておきましょう。
登場人物の人格は、物語が進行するにつれて規定されていきます。
たとえば、書き手が「正義感の強い主人公」を設定したとしましょう。
この設定を活かすためには、物語のなかで「主人公の正義感を知らしめる場面」を設ける必要があります。
「万引きをしようとする人を見つけて叱る」や「事故が起きたときに真っ先に救助する」など、正義感を知らしめる様子を描くわけです。
つまり書き手は、”その人をその人たらしめる場面” を各所に設けることで、登場人物の人格を表現できるといえます。
これを積み重ねることによって、「正義感の強い主人公」は “正義感の強い主人公” らしくなっていくのです。
読み手の立場からすれば、登場人物の人格は、出来事に対するリアクションをもって感じとることになります。
作品を読みはじめた段階であれば、当然ながらその人物像は白紙状態だったはずです。
場面ごとに描かれる登場人物の心情や動きによって、その人物像がどんどん固まっていくわけですね。
物語を読み終えたとき、どのような人物が描かれていたのかを把握できるのです。
ここで書き手が注意すべきなのは、一度設定した人格がぶれてしまうことです。
物語の構造から人格を定めていくプロセスの裏には、とある制約があります。
「正義感の強い主人公」は、作中で一切の悪事を働くことができなくなっているのです。
書き手が設定したのは「正義感の強い主人公」ですから、物語の都合に合わせて人格を変容させるわけにはいきません。
この人物像を描きたいのであれば、細部にいたるまで整合性をとるべきです。
具体的には、ある場面でタバコをポイ捨てしたり、ある場面で誰かの悪口を言ったりなどはできないはずですね。
もちろん人間を描くのですから、「心の揺らぎ」や「言ってることとやってることの矛盾」が生じることもあるでしょう。
書き手の緻密な計算によって、それらを描くのであれば問題ありません。
ただし、書き手の「詰めの甘さ」から、すでに規定されたはずの人格がぶれてしまう状況は避けたいですね。
書き手は、物語の進行にそって徐々に形成される登場人物のことを考えながら執筆しましょう。
■ 参考
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません