実験小説を考える【手法と物語】
今回は「実験小説」について考えてみましょう。
実験小説には、大きく分けて2通りのアプローチがあります。
● 前衛的な手法を使い、文学の可能性を見出そうとする小説
●「人」「場所」「モノ」などを設定し、その条件で人間や社会の有様を描く小説
それぞれの実験について、詳しくご紹介します。
手法を実験する
→ 前衛的な手法を使い、文学の可能性を見出そうとする小説
ときに書き手は、実験的な手法を用いることがあります。
たとえば「使える文字を限定する」や「近距離で複数の視点を切りかえる」など、一般的な作品では見られない書き方をする場合ですね。
作品になんらかの制限を課したり、あえてセオリーを無視したりと、表現手法の可能性を探るわけです。
実験小説として有名なのは、この作品です。
五十音が消失する世界を描いています。
失われるのは言葉だけでなく、その言葉が使われていた概念までも忘れ去られてしまいます。
(「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなる)
ユニークな手法をもって実験的に書かれた作品は、独特の世界観をもっています。
物語のおもしろさだけでなく、独創性のあるアプローチ自体が読み手にとっての興奮材料となるでしょう。
物語で実験する
→ 「人」「場所」「モノ」などを設定し、その条件で人間や社会の在り方を描く小説
このアプローチについては、以前すでにご紹介しています。
かんたんにいえば、「もし○○だったら……」を考える書き方ですね。
例
● 貧困家庭に生まれたらどんな暮らしをするのか
● 夫婦別姓で暮らしたら、どんなメリット・デメリットがあるのか
● 75歳で命を断つ法律が出来たら、本人や家族はどんな思いで過ごすのか
物語を通じて、社会や人間の在り方をシミュレートするのです。
前項の「実験」は表現手法に重きをおいたものでしたが、こちらの場合は物語として描く内容そのものが実験場となるわけですね。
たとえば次の作品は、「もし夫婦間の性行為がタブーだったら……」という設定で描かれています。
物語を通して構築された世界では、新たな価値観であったり、これまでにない概念などを描くことができます。
「もし○○だったら……」の発想から生まれる実験がユニークであれば、読む価値のある作品となるでしょう。
「物語の変化」にゆだねる勇気
以前ご紹介したように、小説には運動性があります。
プロットやパーソナリティの設定から、書き手の意図に反する動き方をすることがあるのです。
実験小説と呼ばれる作品では、どちらのアプローチであっても、この「物語の変化」が重要なポイントです。
実験をするのですから、書きはじめた段階ではその結果がわかっていないはずです。
ある程度の見通しは立てるでしょうけれど、思ったとおりの実験結果が得られるとは限りません。
進む方向やそのスピード、行き着く先など、重要な部分は「物語の変化」にゆだねることになるのです。
実験するつもりであれば、当然、書き手はこの変化を受け容れなければなりません。
むしろ変化を積極的に活用しなければ、実験は成り立たないのです。
予測困難な物語を書き続けるのは書き手にとっても勇気がいることですが、その先に「誰も見たことのない実験結果」があれば、作品は飛びぬけた価値をもつことになります。
実験結果に期待を膨らませつつ、勇気をもってチャレンジしていきましょう。
■ 参考
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