事例から紐解く、読み手を意識した伝え方

 

日本には、相手の気持ちを積極的に察する文化があります。

コミュニケーションをとる相手がなにを思っているのかを、多くを語らずに汲みとることを美徳とする風潮です。

要するに、四字熟語でいうところの「以心伝心」ですね。

 

―――言葉をはっきりさせずとも、相手の伝えたいことを汲みとることができる。

これは、日本人の特殊能力といって差し支えないでしょう。

直接的なコミュニケーションをとる文化圏では、以心伝心を「telepathy(テレパシー)」と訳すこともあります。

 

 

しかしながら、ときにはこの文化が思わぬトラブルの発端となることもあります。

ここで、ある旅行会社と利用客とのやりとりを見てみましょう。

 

 

旅行会社 「オプションお付けしますか?」

利用客 「けっこうです。」

 

 

このやりとりは、後に金銭トラブルに発展します。

実際にあった事例です。

ニュースで見た人も多いのではないでしょうか。

書き手としての立場から、このことについて考察してみましょう。

 

相手の気持ちを汲みとろうとしたのは、旅行会社ですね。

利用客が返答した内容を、「(つけて)けっこうです」と解釈したのです。

 

しかし利用客は、「(いいえ)けっこうです」と伝えたつもりで、ここに認識の違いが生じました。

この誤解が利用プランの請求金額を数十万円も変えてしまい、金銭トラブルに発展したのです。

 

 

良い悪いの最終的な判断は、しかるべき機関にゆだねるとしましょう。

ここでは、書き手としての立場で考えます。

 

きちんと確認しないままオプションを追加した旅行会社には、たしかに過失があります。

一方で、利用客側の返答をみると、まったく非がないと言い切れるでしょうか。

 

利用客としては、はっきり断ることで不躾な印象を与えたくなかったのでしょう。

その気遣いはとても大事なことです。

しかし同時に、「自分の気持ちを組みとってもらえるだろう」と過信していたのではないでしょうか。

結果として、YESとNO、どちらにも解釈できる返答になってしまったのです。

 

これは、読み手を意識せずに文章を書くことと同じ状況です。

「わかってくれるだろう」という怠慢な態度では、伝わるものも伝わりません。

押さえるべき要点をしっかり押さえて、わかるように伝える必要があります。

あいまいな伝え方になった以上、利用客の返答にも問題があると言わざるを得ません。

 

この事例のような伝え方による認識の違いは、私たちの生活のいたるところにみられます。

「相手の気持ちを察する文化」が私たちの意識に根付いているため、決して珍しいことではないのです。

ましてや文章を書くという行為は、認識の違いが起こりやすいコミュニケーションの筆頭です。

事例のような錯誤を文章に落とし込まないよう、読み手のことを考えて執筆しましょう。

 

 

 

 

コラム

Posted by 赤鬼