描写を使って引き寄せる

今回は、描写文の効果について詳しく見ていきましょう。

こちらの記事にも書いたように、描写文は物語の進行にブレーキをかけます。

本来、物語は終わりに向かってどんどん進んでいくべきであって、読み手も次の展開を望んでいるはずです。

したがって書き手は、描写文の存在を不本意なものとしてとらえることもできるのです。

もちろん、あえて進行を妨げるほどの理由はあります。

描写文の役割は、読み手に実感をもたらすことです。

物語の進行にブレーキをかける理由は、読み手に実感をもたらして引き寄せるためです。

例として、ちょっとした場面を見てみましょう。

浮気の現場に遭遇した、夫視点でのエピソードです。

原文

ぼくは会社を早退し、自宅にほど近い喫茶店に入った。

そこには、見知らぬ男性と談笑している妻がいた。

妻は、ぼくの存在には気がついていないようだ。

斜向かいの席に着き、彼女らの会話にそっと聞き耳を立ててみた。

主人公である夫(ぼく)は、やけに淡々としていますね。

ショックを受けたり、焦燥したり、怒りが沸いてきたりといった感情の変化は見受けられません。

完結に向かって急いでいるような書き方です。

せっかく印象的な場面ですから、内面を描写してみましょう。

改善文

ぼくは会社を早退し、自宅にほど近い喫茶店に入った。

そこには、見知らぬ男性と談笑している妻がいた。

普段とは違う行動をとったことを後悔した。

何ひとつ悪いことはしていないはずなのに、彼女らに気づかれないよう、じっと身を潜めざるを得なかった。

妻は、ぼくの存在には気がついていないようだ。

斜向かいの席に着き、彼女らの会話にそっと聞き耳を立ててみた。

赤字で書かれたものが、主人公の内面を描写した文章です。

当然ながら、描き方はさまざまでしょう。

ここで重要なのは、描写文の有無が物語に及ぼす影響を感じとることです。

原文と比べてみると、一目瞭然です。

たしかに改善文では、原文とは違い、話がスムーズに展開していません。

これは描写文によって、物語の進行にブレーキをかけているからです。

しかし、より作品に引き込まれるのは改善文ではないでしょうか。

描写文があることで、読み手は、主人公の心情にぐっと近づくことができます。

たった数行で完結する場面でも、描写文によってこれだけの差が出るのです。

物語を完結させることだけが、作者の役割ではないのです。

描写文を使ってブレーキをかけながら、読み手の感情をうまくコントロールするつもりで、進行しなければなりません。

急いで終わらせてしまうことなく、丁寧に書き上げましょう。

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