文体は「取捨選択」によってにじみ出る
文体については、過去に何度かご紹介していましたね。
上記の記事では、表記や言葉づかいなど、表層から感じとれる文体を主軸として扱いました。
この文体は、「どのように描くか」で変わってくるものです。
誤解を恐れずにいえば、書き方によっていくらでも操作できるといえます。
今回注目したいのは、その前にある段階です。
筆をとる前に、書き手は「内容」を選んでいるはずですね。
その選択は、書き手の個性によって変わってくるものであり、かんたんに操作することはできません。
もちろん、どのような内容を選んで書くかによって、実際に執筆する文体に影響を与えます。
いいかえれば、「取捨選択」によって書き手自身から文体がにじみ出るのです。
わかりやすいのは、風景の描写です。
たとえば「海」の風景を描写するとき、書き手はさまざまな要素を取捨選択することになります。
書き手が選んだ要素によって、海という風景は、おだやかにも、荒々しくも、もの悲しくもなるでしょう。
この違いが形式的な変化をつけられるとしたら、それは「表層の文体」によるものです。
くり返しになりますが、重要なのはその前の段階です。
完成した描写文の源流には、「書き手の取捨選択」があったはずです。
「波がゆれる様子」を描くのか、「船が浮かぶ様子」描くのか。
「カモメが優雅に空を飛ぶ様子」を描くのか、「空と水平線の境界」を描くのか。
ここで見られる違いは、表層で語られるものではありません。
なにを選択するかによって、描写される海の風景そのものが変わってくるのですから、根本的なところから文章に影響を与えます。
「表層の文体」に対比させるとしたら、書き手からにじみ出たものは「深層の文体」なのです。
一歩踏み込んで考えれば、取捨選択することは「書き手の独自性」や「書き手の感性」を担保することにもつながります。
つまり書き手にとっては、アイデンティティやオリジナリティを表現できる数少ない手段でもあるのです。
どの部分を選んで、どの部分を捨てるのかを決めるのは書き手自身です。
独自の視点から取捨選択をくり返すことで、自分らしい文章を表現していきましょう。
■ 参考
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません