「テンポ」と「奥深さ」の関係を考える【表現の二重性】
物語に流れる時間と、そこに描かれる内容の濃さについて考えましょう。
かんたんな言葉に変換すれば、「テンポ」と「密度」ですね。
書き手はこの両者を共存させ、バランスをとりながら、作品全体を仕上げていくことになります。
今回はこれらをマネージメントするときの考え方ついて、ジャンルの傾向とともに見ていきましょう。
「テンポ」と「密度」
単純な”おもしろさ”を追求したとき、重要になるのは「テンポ」です。
スピード感がなく、だらだらと展開される物語は、読み手を退屈にさせる傾向にあります。
とくに、いわゆる「エンタメ小説」では、物語のテンポを意識しながら進めていくわけです。
それに対して「純文学小説」は、遅いテンポが許されてしまいます。
物語のなかで「人間の内面」を濃密に描くのであれば、ストーリー自体の動きが渋くなるのは致し方ないことだからです。
むしろ純文学の読み手は、テンポを犠牲にしてまでも、その内容が「高い密度」をもって描かれることを求めています。
つまり、「テンポ」と「密度」は相反する関係にあるといえます。
書き手がどちらかに重きをおいたとき、原則として、選ばなかったほうを引きかえに物語を書き進めることになります。
共存にチャレンジする
とはいえ、「テンポ」と「奥深さ」がまったく共存できないわけではありません。
「テンポよく展開する中身のない物語」や「人間の奥深さばかり描いてまったく展開しない物語」があったとしましょう。
物語として成立させることはできても、読み手に広く受け容れられるとは考えづらいですね。
世に出ている作品は、実際のところ、両者の性質を重ねあわせながらバランスをとっているのです。
したがって書き手は、「テンポ」と「奥深さ」を共存させるためにチャレンジすべきです。
「自分が書くのはエンタメ/純文学だから」と、振り切ったり、開き直ったり、あきらめたりしてはならないのです。
おおまかな傾向はあるにしても、ジャンルによって区別することなく、コントロールしていきましょう。
表現の二重性を活用する
書き手が考えるべきは、表面的な内容ではなく、言葉の裏にどのような意味をもたらすかです。
ここでは「表現の二重性」と呼びましょう。
表現の二重性をもたらすとき、わかりやすく実践できるのは会話文です。
例
A「外を見て、すごくいい天気だよ!」
B「そうだね。久々にランチでも行こうか」
会話文としてのクオリティには疑問がありますが、このやりとりからはさまざまなことが読みとれます。
Aのセリフから、話者がどこかに出かけたい気分であることがわかります。
Bのセリフでその気持ちを汲み、同調し、提案したわけですね。
何気ない会話文であっても、言葉の裏にはたくさんの意味が詰まっているのです。
上記の例は、テンポよく展開するための会話といっていいでしょう。
登場人物の会話では「読み手が過ごす時間」と「物語に流れる時間」が一致するため、次の展開につなげやすいのです。
もちろん物語を展開させないままで、内面を掘り下げるように仕向けることも可能です。
例2
A「外を見て、すごくいい天気だよ!」
B「そうだね。日差しが眩しくて仕方ないね」
どこかに出かけたい気分のAに対して、Bはどこにも出かけたくない気分であることが読みとれます。
返し方ひとつ変わるだけで、会話文に緊張が生まれ、不穏な空気が流れる様子を演出できます。
次に書かれる文章は、スピード感をもった展開でなく、おそらく登場人物の内面に関する描写になるでしょう。
「テンポ」と「奥深さ」のバランスをとるためには、表現の二重性を活用することが必須です。
物語にどのような作用をもたらすかを考えながら、的確な言葉を選ぶことが求められます。
巧く扱うことができるよう、細部に気を抜くことなく表現していきましょう。
■ 参考
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