「状況+モノ」を心情と対比させる
小説の執筆していると、書き手の目的ありきで場面を設定したくなることがあります。
プロットにそって、という大枠の意味ではありません。
もっと局所的に、書き手が意図した上で行う場面設定です。
たとえば、主人公の心情をよりわかりやすく伝えるために、それに適した場面を設定するといった作業です。
書き手が、次のような目的をもったとしましょう。
● 書き手の目的:「離婚したばかりの主人公が、離れてしまった家族を想う心情を描く」
この心情描写を際立たせるには、どのような要素が必要でしょうか。
小説は自由ですので、「ふと思い出した」「不意に思い起こした」「どういうわけか気になった」としても、問題はありません。
しかし、これではあまりにも芸がないですね。
そこで、効果的な手法があります。
特定の心情を、状況やモノと対比させるのです。
たとえば、次のような場面設定です。
● 場面:「ファミリーレストランにて和気あいあいと食事する家族を、主人公が独りで見つめる」
家族の団らんと、主人公の孤独。
公の場で仲睦まじい家族の様子をみて、主人公の家族に対する想いは熱量を増すでしょう。
それに乗じて、寂しい心情を切々と描こうとするわけです。
まさに、心情と状況を対比させてこそ得られる効果ですね。
もちろん、独りでファミリーレストランで食事するにあたっては、相応の理由がなければなりません。
ラーメンでも、牛丼でも、コンビニ弁当でもなく、なぜファミリーレストランなのでしょう。
そうした理由付けも踏まえて、構築する必要があります。
理由付けがなかなか難しいと感じる場合は、モノを使って描くのも良いでしょう。
● 場面:「持ち出すのを忘れたのであろう妻専用のシャンプーを、主人公が浴室で見つける」
妻専用のシャンプーによって、家族だったときのことを主人公が思い起こす、というわけですね。
このように、身近なモノは場面に組み込みやすい傾向にあります。
生活感があればあるほど、目に付きやすく、そこから発想を膨らませることができます。
加えて、「シャンプーは香りがするモノ」であることも重要なポイントですね。
音や味など、感覚に訴えかけるような要素があれば、記憶を呼び起こすきっかけになりやすく、より効果的に使えるでしょう。
今回ご紹介したテクニックは、とてもオーソドックスな部類のものです。
読み手によっては、状況やモノと対比させて描いた心情を「あざとい」とか「工夫がない」とか、そういった印象をもつかもしれません。
ただ、先に出たような「ふと」「不意に」「どういうわけか」を使うよりは、幾分か書き手の努力が見られることは事実です。
もちろん、読み手にも伝わりやすくなるでしょう。
執筆テクニックのひとつとして、いつでも出せるよう用意しておいても良いのではないでしょうか。
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