「場面の並べかえ」で魅せる
今回は、場面の並べ方について考えていきましょう。
ここで注目するのは、魅せ方です。
場面を並べる作業については、以前にもご紹介しました。
組み立て方として考えれば、時系列に並べて提示したほうがわかりやすいのは間違いありません。
物語のなかでの整合性をとるためにも、出来事の経過を把握しておかなければなりません。
しかし作品として公表するのであれば、「魅せ方」に力を注ぐべき場合があります。
物語によっては、場面を時系列に並べただけでは物足りないと感じることもあるのです。
たとえば、このような物語があったとします。
● 夫に浮気していることがばれる
↓
● 浮気相手が、実の兄であることも知られる
↓
● 親族全員に暴露すると言われ、主人公は逆上する
↓
● 主人公は包丁を取り出し、夫を刺した
起こった出来事が、時系列にそって並べられています。
事の重大さを比べると、最上位に位置するのは「夫を刺した」であるはずですね。
もちろん現実世界では絶対に許されないことではあるものの、一応、創作上の理屈は通しています。
組み立てる段階では、このような順序でもかまいません。
この物語を “魅せる”ために、ちょっとした工夫を加えてみましょう。
● 主人公は包丁を取り出し、夫を刺した
↓
● 夫に浮気していることがばれたからだ
↓
● 浮気相手が、実の兄であることも知られた
↓
● 親族全員に暴露すると言われ、主人公は逆上したのだ
ある意味では、こちらのほうが小説らしい並べ方といえます。
なぜかというと、場面の並べ方によってフックを作っているからです。
フックとは、読み手の興味を引くような「きっかけ」のことです。
「夫を刺した」という事実を先に提示することで、読み手の頭には疑問が浮かぶはずです。
それをフックとして、読み手の「なぜ?」「どうして?」「理由は?」を駆動させる仕組みになっています。
山場やオチを最初にもってくるというよりも、さらなる展開でたたみかけたり、その後日談に読みどころを設ける感覚です。
物語は尻すぼみにならないよう、山場やオチはまた別のところに用意しておいたほうが良いでしょう。
小説には、このような手法がとられた作品がたくさん存在します。
もうひとつ、わかりやすい例を挙げてみましょう。
メロスは激怒した。
いわずと知れた名作、太宰治の『走れメロス』ですね。
書き出しの一文に感情の盛り上がりをもってくることで、読み手の意識を作品に引き寄せています。
書き手は、このようなフックを最初にもってくる手法を覚えておいたほうが良いでしょう。
もちろん、作中で起こる出来事や作品の世界観によって、その扱いは微妙に異なります。
しかし例にあったとおり、読み手を作品の世界に誘うにはとても有効な方法であることは間違いありません。
物語を論理的に構築しようとする姿勢はとても重要です。
ただし、小説の書き方として考えれば、生真面目に従う必要はありません。
それぞれの場面がもつ意味や、そこで起こる出来事の濃度、時系列との兼ね合いをみて、魅せ方を意識しながら場面を並べかえてみましょう。
そのようにしてフックを設けると、今よりも魅力的な物語になるはずです。
■ 参考
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