「登場人物の人格」がもたらす運動性
以前、小説の運動性についてご紹介しました。
運動性をもたらす要因は、書き手の構想に変化があった場合や、物語でとるべき整合性が見えた場合など、いくつか挙げられます。
「登場人物の人格」も、要因のひとつです。
今回は、登場人物の人格が及ぼす物語への影響に着目してみましょう。
登場人物の人格は、物語が進行するにつれて規定されていきます。
しかし、物語によって規定された「主人公の人格」が、「書き手の構想」とマッチしているとは限りません。
書き手が、「正義感の強い主人公」を設定したとしましょう。
物語をダイナミックに展開させるため、終盤で主人公が「悪人になる場面」を用意しました。
この場合、「悪人になる場面」にもっていく作業は、物語が進むにつれて難しくなっていきます。
相応のきっかけや納得感のある流れを思いつかなければ、「物語の進行」と「主人公の人格」の間で整合性がとれなくなることもあるでしょう。
そうなれば書き手は、当初予定していたプロットの変更を余儀なくされます。
「悪人になる場面」をとりやめ、「無鉄砲な正義感は誰かを傷つける」や「”善”と”偽善”の違いに思い悩む」など、軌道修正するのです。
いわば、登場人物の人格によって本来想定していなかった新たな展開をもたらされたことになります。
登場人物の人格は、物語に対して大きな影響を及ぼすのです。
原則として書き手は、登場人物がもたらした展開に抗わないほうが良いでしょう。
なぜならこれは「登場人物の人格が、書き手の物語を超えた瞬間」でもあるからです。
登場人物の人格は、場面ごとに固有のリアクションをもって表現され、物語を通じて規定されたものです。
その積み重ねによって物語が動いたということは、それは「物語から必要とされた展開」と考えるのが自然です。
書き手からしても想定外のことでしょうけれど、その「意外性」が物語をイキイキとしたものに変えてくれます。
書き手がこの変化を実感することは、小説を書く上での楽しさのひとつであり、醍醐味でもあります。
「状況によって変わる」といえばキリがありませんが、登場人物が物語に与える変化はポジティブなものになることが圧倒的に多いです。
登場人物の人格は尊重すべきであることは当然として、作品の出来栄えをみながら、物語の動き方を楽しみましょう。
■ 参考
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